狂った風


熊野古道まではバイクで行く。遠いから、どうしても高速道路を使う羽目になる。だが、わたしは高速を走るのが大嫌いだ。高速の風は狂っているから。

バイクにとって、高速の風は大敵だ。真向かいなら大したことはないが、それでも突風で頭が後ろに弾かれそうになることはある。横風はこわい。舞っていると本当にこわい。いちど、左右に翻弄されてひっくり返されそうになったことがある。

わたしのバイク、ZZR400はフルカウルの高速ツアラーで、確かにネイキッドに比べると遙かに快適とは言える。横風さえ強くなければ、風防が風から全身を守ってくれる。だが、横風が強いときはそのカウルがあだになってしまう。風を受ける帆の役割をしてしまうからだ。

高速の風はどこかおかしい。狂っている、は大げさに聞こえるかもしれないが、一般道ではそんな吹き方はしない。同じ速度を出していても、高速と一般道では風の感じが全く違う。 高速の風はとても人工的で自然の息吹が感じられない。気持ちが悪いんだ。おそらく、多数の車が高速で移動することによって乱気流が発生してしまうのだろう。そう、高速を吹いているのはもはや風と言うべきものじゃないのかもしれない。

高速では、なんだか感覚が遮断されてしまうようだ。感じるのは空気がヘルメットをたたく音ばかりだ。自分のバイクのエンジン音すらまともに聞こえやしない。できるだけ空気抵抗を小さくするために頭を低くして身を縮めていると、どうにも窮屈な感じがしてしまう。横風が来ると、車体が浮き上がる感じで、大地からも切り離されるような気分になる。

一般道に降りるとほっとする。直列四気筒の低いハミングが鼓動を高める。タイヤはしっかりと大地を捉え、ああ走っているんだという感じがする。高速だと、「走らされている」としか思えない。

行く先が熊野古道であることも期待を高める。 でも、ときどき目的地についてももっと走り続けたい気分になるな。




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