プレQ&A


記念すべき第1回目はメールでいただいた質問のやりとりをそのまま掲載することにします。これ以後は、質問の部分を切り取って(必要なら)修正を加え、Q&A形式に直してお答えする予定です。


●GAUCHOさんからのメール1

Subject: 「自由に法哲学」の感想
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いつも楽しく『自由に法哲学』を読ませて頂いてます。

突然ですが、今回Act5にある「民主主義は"good"ではな い。しかし"best"である」とはどういう意味でしょう? 「民主主義が社会主義、共産主義よりbetterである」という ならまだ納得しやすいし、「現代日本の民主主義はスター リン主義、毛沢東主義よりbetter」と言ったほうがさらに 賛同を得られやすい思いますが、BESTというのは腑に 落ちません。
これに何か前提条件でもあれば、と思うのですが。 それとも、私がgood, better, bestの意味を取り違えて いますか?
”good”の尺度をどこに持っていくかで全然言っている意味 が違うし、”人の幸福度”なんてもので測ろうとしても無理 ですし。
それとも、裏に相対主義批判みたいなものがあるのですか?

話は変わりますが、民主主義→多数決→議論の大切さ、 という組み立ては大体OKなのですが、微妙にズレがある ように思います。
例えば共産主義国家で議論が行われていないという わけではないので、議論は民主主義の占有物とは言え ないとか。
とすると、国民全部を巻き込んだ議論を出来るのが民主 主義の良いところ、と議論は発展していくのでしょうか。 しかし、情報とは高度化、専門家すると、大衆との距離が 開いてしまうという特性があると思うのですよ。
たとえ表現が平易であろうとも、「ここは開かれています よ・誰でも参加していいんですよ」と呼びかけたとしても。 それをRBがどう乗り越えるのか!?楽しみにしています。
「伽藍とバザール」の焼き直しじゃないといいなと思い つつ。

GAUCHO。




●小林和之(K2)のお答え

Subject: good と best
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 丁寧なご感想をお送りいただき、どうもありがとうございます。"Thinking like Singing" 筆者の小林です。

 さて、「民主主義は"good"ではない。しかし"best"である」について。

 ちょっと乱暴な言い方をすると、"good"は絶対評価であり、"best"は相対評 価であるということになるでしょうか。"good"のほうがより主観的であるとい う言い方もできます。

 職務内容がまったく同じで、時給300円の会社と、400円の会社と、500円の 会社がある場合、時給500円が"best"ですね。しかし、いまどき時給500円では "good"とは言えないでしょう。

これに何か前提条件でもあれば、と思うのですが。

 前提はあります。ちょっとオオゲサには「世界」であり、「人類の歴史」で す。そして、もうちょっと普通にいうと手に入る範囲で、ということになりま す。つまり、人間が考え出した政治制度の中では民主主義よりよい制度はない ということなんです(もちろん独裁主義のほうがよいという判断はあり得るの ですが)。

”good”の尺度をどこに持っていくかで全然言っている意味 が違うし、”人の幸福度”なんてもので測ろうとしても無理 ですし。 それとも、裏に相対主義批判みたいなものがあるのですか?

 その通りです。わたしの研究テーマは、法哲学では「価値論」にいちおう分 類されるのですが、相対主義を否定しています。批判、というほどの手間はか けていませんが。「人を殺すのはよいことである」というような価値観は、相 対主義では否定できませんが、それでは社会が成り立ちません。

 では、「絶対の正義」があるのでしょうか。わたしはこれも否定します。人 の生命すら、絶対のものではありません。

 何が正しいかを絶対的に決定することができず、使うことのできる手段も資 源も人も時間も限られている中で、いかに問題を処理するか。それを扱うテク ノロジーがわたしの考える法哲学なんです。

 なお、「民主主義は"good"ではない」か、というと、別に"good"と言っても 構わないと思っています。それを敢えて否定したのは、「民主主義=イイモ ノ」という思考停止状態を揺り動かすためです。教師の、そして、哲学者の重 要な役割の一つが、「自分でものを考えるきっかけをつくる」ことだとわたし は考えているのです。常識の逆を言ってみたり、挑発してみたりすることがあ るのは、そのためです。

 次に、議論について。

例えば共産主義国家で議論が行われていないという わけではないので、議論は民主主義の占有物とは言え ないとか。

 専有物ではないのはおっしゃるとおりです。共産主義(理論的には民主主義 なんですが‥‥)に限らず、独裁政治のもとでも議論は行なわれうるでしょう ね。ただ、政治的な位置づけが大きく違います。国民(の代表)が議論をするこ とが政治的決定の重要な要素になっているという点を民主主義の特徴というこ とができるでしょう。

しかし、情報とは高度化、専門家すると、大衆との距離が 開いてしまうという特性があると思うのですよ。

 その通りです。全員に分かるというのは不可能ですし、それどころか過半数 に分かってもらうことも不可能な場合は少なくないと思います。そのことをR Bでは、「理解のグラデーション」を作ることでなんとかしようとしているわ けです。自分が直接分からなくても、自分が分かることを書いていて、優秀だ と自分が思う人が高く評価するなら、それはいいものだと間接的に分かる、と いうふうに。

たとえ表現が平易であろうとも、「ここは開かれています よ・誰でも参加していいんですよ」と呼びかけたとしても。 それをRBがどう乗り越えるのか!?楽しみにしています。

 実際問題としては、非常に難しい問題だと思うのですが、なんとか取り組ん でいきたいと思っております。

 以上の説明で不十分なところもあると思います。詳しく書くと長くなりすぎ ると考えた部分などは省略しております。分かりにくいようでしたらどうぞお 尋ねください。

 最後にお願いがあります。いただいたメールとこのメールをホームページで 公開させていただけないでしょうか。「Thinking like Singing Q&A」のよ うなページを作りたいのです。掲載スペース・見やすさの問題がありますので、 いずれはメールそのままでなく、質問の部分を切り取って修正しQ&A形式に しようと思うのですが、記念すべき第1回はそのまま掲載させていただければ と思います。  おそらく同じ疑問をもたれている読者がいらっしゃると思います。知の共有 は、RBの重要な使命です。ぜひご承諾いただければと思います。



●GAUCHOさんからのメール2

 丁寧なご感想をお送りいただき、どうもありがとうございます。"Thinking like Singing" 筆者の小林です。

とんでもない!こんな解説を頂いて感激です。

 さて、「民主主義は"good"ではない。しかし"best"である」について。
 ちょっと乱暴な言い方をすると、"good"は絶対評価であり、"best"は相対評 価であるということになるでしょうか。"good"のほうがより主観的であるとい う言い方もできます。
 職務内容がまったく同じで、時給300円の会社と、400円の会社と、500円の 会社がある場合、時給500円が"best"ですね。しかし、いまどき時給500円では "good"とは言えないでしょう。

すごく良く分かりました。

私はbestという言い方に「民主主義は何よりも優れていて 今までもこれからも民主主義を超えるものはないのだ」と いう意味があるのかな?と疑問だったのです。

| これに何か前提条件でもあれば、と思うのですが。
 前提はあります。ちょっとオオゲサには「世界」であり、「人類の歴史」で す。そして、もうちょっと普通にいうと手に入る範囲で、ということになりま す。つまり、人間が考え出した政治制度の中では民主主義よりよい制度はない ということなんです(もちろん独裁主義のほうがよいという判断はあり得るの ですが)。

これまたよく分かります。

ただ、これからも民主主義がbestであるかというと、それは 違うと思うのです。
他の思想の可能性を否定し、思考を停止してはいけない という意味と、現在の民主主義にも発展の余地があるはず という意味において。

実際、私は真に優秀な少数グループによる統治が最も 効率よく、優れている(すなわちbest)と思っています。 問題は、そんな「真に優秀な」人はいないという事です。 その事と、多数の人が関わる程、決定はマシなものに なるというのは世界/歴史がほぼ証明しているのでしょう。

| しかし、情報とは高度化、専門家すると、大衆との距離が
| 開いてしまうという特性があると思うのですよ。
 その通りです。全員に分かるというのは不可能ですし、それどころか過半数 に分かってもらうことも不可能な場合は少なくないと思います。そのことをR Bでは、「理解のグラデーション」を作ることでなんとかしようとしているわ けです。自分が直接分からなくても、自分が分かることを書いていて、優秀だ と自分が思う人が高く評価するなら、それはいいものだと間接的に分かる、と いうふうに。
| たとえ表現が平易であろうとも、「ここは開かれています
| よ・誰でも参加していいんですよ」と呼びかけたとしても。
| それをRBがどう乗り越えるのか!?楽しみにしています。
 実際問題としては、非常に難しい問題だと思うのですが、なんとか取り組ん でいきたいと思っております。

やはりここ(実行面)が一番のポイントではないかと思います。 「優秀だと思う人」というのは、すなわち権威ということに なってしまい、「TVが、新聞が言っているから、それは真実 だろう」と思ってしまう現状とほとんど変わらないでしょう。 例えばInternetなどのツールを導入したところで、使う側 の意識も変わらないと、一部の利益を代表する権威と、 それに不満を持ちながらも従う大衆という構図は変わらない と思います。

もちろん、ある硬直した権威が、新たな権威に置き換わる という権威の移動・流動性は重要であると思っているの で、「やるだけ無駄」などとはまったく思っていません。

 以上の説明で不十分なところもあると思います。詳しく書くと長くなりすぎ ると考えた部分などは省略しております。分かりにくいようでしたらどうぞお 尋ねください。

いえいえ、疑問が解けてすっきりしました。
ありがとうございます。

 最後にお願いがあります。いただいたメールとこのメールをホームページで 公開させていただけないでしょうか。「Thinking like Singing Q&A」のよ うなページを作りたいのです。掲載スペース・見やすさの問題がありますので、 いずれはメールそのままでなく、質問の部分を切り取って修正しQ&A形式に しようと思うのですが、記念すべき第1回はそのまま掲載させていただければ と思います。
 おそらく同じ疑問をもたれている読者がいらっしゃると思います。知の共有 は、RBの重要な使命です。ぜひご承諾いただければと思います。

おおお、なんと!こんなメールでよければ、そのまま だろうが、切ったり貼ったりしようが好きなように使って 下さい。

これからの展開楽しみにしています。



●K2のお答え2

Subject: 民主主義を超えて
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 さっそくご返信・ご快諾いただきありがとうございました。

私はbestという言い方に「民主主義は何よりも優れていて 今までもこれからも民主主義を超えるものはないのだ」と いう意味があるのかな?と疑問だったのです。

 この疑問を抱かれるのは当然だと思います。確かに、ことばが足りなかった と思います。ただ、これはある程度予想していたことでした。そして、それも また良いかと思っていたところがあります。というのは、うんうんと、うなず きながら読んでいただけるのはもちろん嬉しいのですが、疑問と警戒心をもち ながら読んでいただく方もまた貴重だと思うからです。

 ただ、その疑問を放っておくとしたらやはり失敗です。実は、これは最後で 解決したつもりでした。

もちろん、RBは単に民主主義のシミュレーションをするものではない。わた しは「民主主義の先」を見ようとしている。少なくとも、従来の民主主義の先 を。民主主義には確かに大きな欠点がある。はたしてそれは補完できるのか。 それともさらなるブレイクスルーが必要なのか。RBは、そのことを考える上 での実験でもあるということだ。

 RBを民主主義を補完・超越するシステム設計のための手段にしようとして いる、というのがここで言おうとしていたことでした。

実際、私は真に優秀な少数グループによる統治が最も 効率よく、優れている(すなわちbest)と思っています。 問題は、そんな「真に優秀な」人はいないという事です。

 ある意味で、そういうひとびとを創り出そう、というか、みんながそういう 人になれる可能性を拓こう、というのがRBの先にわたしが考えていることな のです。それは民主主義の枠内に収まるものなのか、それを超えてしまうもの なのか、まだはっきりしません。いま、その姿がかすかに感じられるという程 度で、はっきりと描くことはできないのですが。

 というより、これはわたしの手には余るでしょう。でも、RBが一個人を超 えた働きをなしえるとしたら、あるいは?

 まあ、あまりアテにできないことは確かです。それでも挑戦する価値はある と考えています。少なくとも、学界を変えることくらいはできるでしょう。 遠くを見る目を失わずに、また目前の課題をおろそかにすることなく進んでい きたいと思います。

 Q&Aのページができましたら、公開の前にご連絡いたします。どうもあり がとうございました。



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